昨日からものすごい勢いで読み進めていたスティーヴン・マーカス『もう一つのヴィクトリア時代 性と享楽の英国裏面史』が読み終わった。いやあ、メチャ面白いぞ此れ。
ご存じのように最近はアリスを筆頭とした19世紀の英国児童文学に憑かれていたわけだが、19世紀ヴィクトリア朝時代はメイドや執事が華やかなりし頃で、切り裂きジャックもいて、Baby T.S.S.B.のデザインスタイルの基になった磁気人形があった時代で、さらに子供服が本格的に登場した時代でもある。
加えてヴィクトリアンな『好色一代男』たる『我が秘密の生涯』が出た時期でもあると。それ以前はゴシック・ロマンスが華やぎし頃と。
「カント(女陰)だけが私の救いだった。それだけが私の救いだった。それだけが私にすべてを忘れさせてくれた。他の手としては酒かギャンブルしかなかっただろうが、私にとっては、そんなものよりはるかにカントのほうがよかった。」作者不詳『我が秘密の生涯』
なんて調子で書かれた本と、『アリス』や『たのしい川べ』が同時代に印刷・出版されていたっつうのがすさまじい。前者は富裕階級であるが、常にバロウズのような放蕩やアンダークラスの世界へグランドツアーを行っていたが、後者2つは中産階級の世界に留まっていたわけだ。
もちろん、アリスが児童文学の範疇にあり、キャロルおじさんの性癖もあるわけだが、ひとたび下層階級向けになれば、『不思議の国』で大きくなったアリスが排尿時の心配をしたり(スウィフトの『ガリバー旅行期』における小人国での生理現象の挿話をみよ!)、ウサギがアリスをメイドらしい名前「メアリー・アン」と呼んだ際な発情していたら、アリスを狩り回しても(ここら辺りはヴィクトリア朝の屋敷における階級文化を調べなされい)驚くべきことではない。
いやあ、やっぱり猟奇的な目で見た時のヴィクトリア朝はいかに楽しい文脈か。こうなると、ヴィクトリア朝をお伽に溢れた不思議の国としか語れないやつらは、キャロルおじさんがアリスの読者として想定してきた中流階級的な感性に毒されてるんだろうなあ、とか思ってきた。
ヴィクトリア朝の暗部に下降せよ! さらば知識と天啓は与えられん! その点、『家畜人ヤプー』をアリス的なメルヒェンとして読んできた矢川澄子は、ヴィクトリア朝の上も下も理解していのだと、ただただ敬服するのみである。
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- 2009/06/08(月) 22:57:41|
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