クチコミのチカラAmazonで購入 livedoor BOOKS 書評 /
IT・Web クチコミと聞いて思い出すのは95年頃に見たテレビ番組だ。周知のように95年当事といえば援助交際やブルセラブームを背景に、「女子高生が流行を作る!」という風説が強かった次代で、「たまごっち」などがクチコミによるヒット商品の最高峰としてあげられることが多かった。ぼくが見たテレビ番組というのは、会議室に集めた女子高生たちに新作のお菓子を試食して貰うモニターテストのようなものだった。そのお菓子が主要な購買層として女子高生を見据えているだけでなく、モニターを受けた女子高生たちがお喋り、電話、そしてポケベル(!)などを通じて、これから<新発売>されるお菓子の情報を広めていくことを期待してたことは明らかだった。
多くの人が「クチコミ」と聞いて想像するのは、恐らくはそのような光景だろう。本書では米国式に習ってクチコミを「Word Of Mouth」(WOM)と呼称している。WOMには二種類のものが存在し、本書においては自発生的類のクチコミである「オーガニックWOM」と賃金を支払って評判を広める「ペイドWOM」という二種類のクチコミが述べられている。
ペイドWOMのネガティヴな面が顕在化した例としては、2006年の11月3日にNHKの「ニュースウォッチ9」を発端とした騒動が記憶に新しい。騒動の内容は次のようなものだ。「クチコミマーケティング」についての特集が組まれたのだが、番組内で企業から賃金を貰い受けて提灯記事を<生産>している女子大生の例が紹介された。さらには女子大生の紹介に留まらず、企業から接待を受ける様や、企業が主導となって「上手なブログの書き方」を指導される様までもが放送された。放送を受けて、当該女子大生のブログは炎上し、提灯記事を主導した企業にも大量の批判が寄せられるようになった。
察しのように、本書が取り扱うクチコミはネットにおけるものであり、特にブログを介したクチコミビジネスや、ブログが有する市場的価値を主なテーマとしている。最近は記者会見や新製品の発表を行う際、数名に留まる範囲だが有名ブロガーの枠が設けられているという話を良く聞くのだが、本書の中でもそういった実例があげられている。
これまでは、記者会見の場に参列できる人種といえば、マスメディアを掌握している一部の権力者たち、そして権力者の眷属たちといったものだったが、特定のブログ界では著名な人物とはいえ一介の市民的な人たちが、記者会見のような場に参加できるような状況は情報発信の占有を打ち崩す契機として喜ばしく思っている(もちろん、前述した提灯記事の寓話のようなものは少なからず存在しているだろうが)。
帯タタキに「今、企業はブロガーとの対話を求められている」と書いてあるように、本書はブログを用いたクチコミ・ビジネスが含有している市場価値や、商品展開の一例を紹介し、その可能性を読者に投げかけるような体裁を取っている。従って、本書の傾向としては政治経済的な面が強いといえるだろう。大学生の皆さんの中には、ブログやSNSについてレポートや卒論を書きたいという人が少なからずいると思う。経済学やメディア論を専攻とする浅見克彦は
『消費・戯れ・権力――カルチュラル・スタディーズの視座からの文化=経済システム批判』 (2002)の中で、文化を論ずる上では、文化の政治経済的な側面(クチコミビジネスに話を絡めれば、ブログが含有している市場価値ということになる)を見落とすべきだと述べているが、ぼくもその点については大きな同意を持っている。
本書がブログの市場価値という点に力点を置いているということについては繰り返し述べてきたが、ユーザー/消費者に力点をおいたブログ論としては鈴木芳樹の
『スローブログ宣言!』 (2005)が、日記サイトやテキストサイトの隆盛からブログが登場するまでについて、丁寧に解説されているので、本書と前掲書の二冊を併せて読むならば、ブログが市場的な価値を、つまりは企業が商品を売り込むツールとしてオイシイものだと認識するようになった流れを理解し易くなるかもしれない。本書は、ブログを介したクチコミビジネスである「本が好き!」によって献本されたものであり、「本が好き!」というサービスもまたブログを用いた新しい形のクチコミビジネスでる。クチコミビジネスによって頂いたクチコミビジネスに関する本について書評を書くというのも中々に奇妙な気分であったりする。
本書の内容・文体は双方とも読み易く、誰でも手軽に読みこなすことができるだろう。現在のクチコミビジネスの大枠を把握する本としては、特にブログやミクシィが人気を博した影響でネットを始め、ブログを初めてみたという初心者に勧めたいものである。各人がどのようなブログ運営を行いたいかという点について、ぼくは知る由もないのだけれども、ブログを使って何か「オモシロイこと/自分が得するようなアイデア」を展開するためのヒントは収められているかもしれない。
ぼくの、極めて個人的な感想としては、「その手のビジネス書」や「ハウトゥー本」にありがちな、<軽薄さ>を感じてしまう部分はあるのだが――ちょうど、本書を手に取る前に、2011年を考える会による『大変化時代のキーワード ネット社会とビジネスを語る述語集』を読んでいたのだが、本書を読んでいた際に感じたことは、『大変革~』と似たような<軽薄さ>であった。もっとも、それは個人の読書傾向によるものなので、ぼくのようにスレていない人が読めば、そのような軽薄さは微塵も感じないと思うが。
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2007/07/01(日) 23:02:35 |
書評〔本が好き!による献本〕
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