町沢山浩,2005,『〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀』
「昔は映画ぐらいしか娯楽が無かった」という話を、年上の方から聞くことが多い。確かに今現在、娯楽映画は非常に多様化しており、ぼくたちは暇つぶしの選択肢を無尽蔵に選択することができる。映画の地位は昔に比べれば落ちたかもしれないが、映画という娯楽(単なる娯楽で済ますことのできない無尽蔵な奥行きがあるところが、映画の魅力とでも言おうか)は今もなお、その魅力を失うことは無い。
本書は「<映画の見方>がわかる本 80年代カルト・ムービー篇」というシリーズ名が冠されているように、映画の見方・味わい方――というより、理解のための一手段を著者である町山さんが論じているものである。扱われている映画を軽くあげてみると、「素晴らしき哉、人生」「ビデオドローム」「グレムリン」「未来世紀ブラジル」「ロボコップ」、そして「ブレードランナ-」といったタイトルが並ぶ。「カルトムービー」と名が打たれているが故の作品もあれば、ある年齢層にはお馴染みの作品も登場する(ぼくの場合は、「グレムリン」がまさにそれだ!)。
「ブレードランナー」の章は、ある程度の予備知識や多様な関連知識がなければ、少し難解かもしれないが「グレムリン」や「ロボコップ」の章では映画制作の舞台裏(特にビジネスとしての映画)について詳細な記述があり、映画評という枠を超えて提示される成功談や失敗談の連続に一喜一憂しながら読むことができるかもしれない。
述べてきたように、本書はお硬く難解な映画評論というよりは「楽しく学べる映画の裏表」という側面を持っているのだが、映画論としても非常に参考になる(特にブレードランナー論がその絶頂だろう)ので、幅広い層に訴求できるものだと思う。本書で取り扱っている映画に対して、なんらかの思い入れや思い出がある人は、是非とも本書を手に取っていただき自分の体験に照らし合わせながら、思い出の映画がどういう背景を持ち、どういった人間たちが関わっていたのかという挿話に目を向けてもらいたいと思う。
ぼくの体験でいえば、前述したように「グレムリン」に対する思いでが強い。子供の頃、兎に角「グリムリン」が怖かったことを覚えている(特にグレムリンたちが食物を食べて凶暴化するシーン)。一方で、子供の頃のぼくは、バッグスバニーやロードランナーといったキャラクターで御馴染みの「ルーニーテューンズ」が好きだった。そして「グレムリン」の監督であるジョー・ダンテもまた大の「ルーニーテューンズ」フリークで、本書の中においても、ダンテの「ルーニー~」に対する思い入れやオマージュが余すことなく語られており、子供のころ楽しみにしていたテレビ番組「バッグスバニーのぶっちぎりステージ」の場面などを思い返しながら、様々な思い出に浸っていたりもした。
たかが映画、されど映画なのだが、映画は「作品それ自体」ではなく、映画を作り上げてきた人たちがおり、その各人が愛好してきた作品に対する思い入れを持っている。それを大きく言ってしまえば「人生」というやつかもしれない。濃い知識を、偏屈的な感性を持った映画人たちの人生をグツグツ煮付けたようなものが本書のもう一つの側面かもしれない。もし、この書評を読んでいる方が、映画好き(もしくしは名前をあげてきたタイトルに反応してしまう人だったり)ならば、是非とも本書を手にとって活きの良い人生に触れてもらいたいと思う。
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- 2007/06/27(水) 01:34:47|
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